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『光る君へ』感想あらすじレビュー第36回「待ち望まれた日」まひろの毒に痺れるばかり

2024/09/24

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『光る君へ』感想あらすじレビュー第36回「待ち望まれた日」
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皇子誕生

ついに産声が聞こえてきます。

「皇子様にございます!」

倫子がそう告げられ、尊いBGMが静かに鳴り響く――栄華の象徴たる、藤原道長の血を引く皇子が生まれた瞬間です。

あの読経と憑坐の絶叫の後で生まれてきたことを考えると、どれほど尊いか。

倫子の母である藤原穆子も喜び、亡き殿も喜んでいると語ります。

思えば穆子は夫の源雅信が乗り気でないにも関わらず、道長を婿として土御門に迎えるように進めました。彼女も賭けに勝ったのです。

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倫子が中宮をねぎらい、中宮は「これも藤式部の導きによるものだ」と嬉しそうにしています。

めでたい場面ではありますが、素直な中宮が藤式部に陶酔しすぎているようにも思えてくる。

倫子にしても、彼女には散々御礼を言ったと微笑んでいます。

めずらしき
光さしそう
盃は
もちながらこそ
千代もめぐらめ

柱に寄りかかり、盃を手にして、月を見ながらまひろが歌を詠んでいると、通りがかった道長が意味を尋ねる。

中宮様という月の光に、皇子様という新しい光が加わった盃は、今宵の望月の素晴らしさそのままに千代に巡り続けるでありましょう。

まひろが説明すると、「覚えておこう」と返す道長。

そのころ源俊賢は妹の源明子に対して「これで左大臣様は盤石だ」と語っていました。

明子は、自身の娘である寛子も入内させる気だと野心に満ちあふれている。

兄の俊賢が、まだ裳着も済ませていないと制しても、土御門に負けられぬと意地を張るのです。「政争の道具にするな」という道長の言葉を伝えると、こう来ました。

「殿の言いなりにはなりませぬ。ふふふふふふ」

妖艶に笑う明子。

もはや恋心は燃え尽き、野心だけが燻っているようです。

 


無礼講の「五十日の祝い」

帝は敦成(あつひら)と名付けられた皇子に会うため、土御門まで行幸してきました。

我が子を抱き、愛しむ帝。

親王宣下がくだされ、土御門では【五十日(いか)の祝い】を迎えています。

現代でいえばお食い初めの行事であり、当時は、やわらかい粥を口にそっとふくませる儀式だそうです。

中宮はそれまでの紅梅色から、青をあしらった衣装になりました。

招かれた公卿たちは浮かれ、呑気な道綱は贈り物が50日で50個ある!とはしゃいでいます。

琴の音が響く中、道長は無礼講だと宣言。

いくらでも酔ってよいとのことですが……ここで平安貴族の酔態が見られます。

これも紫式部が日記に書き残したために見られるのです。

「おなごはどこかな〜」

そうバタンと几帳を巻き込んで倒れるのが顕光。しょうもないですね。

実資は女房の衣装の数を確認しています。セクハラ上司に見えますし、相手の大納言の君もうんざりしていますが、ただの嫌がらせではありません。

このころは高価な衣を重ねることが禁じられています。実資はちゃんとその決まりを守っているのか確認しているのです。ただ、そんなこと酒宴でやらなくてもよい話でして。

「この辺りに若紫はおいでかなぁ〜」

そう酔いどれつつ、からかうように言うのは藤原公任でした。

「若紫のような美しい姫はおらぬなぁ〜」

という意味まで付け加えてきて、女性たちにしてみれば「何言ってんだ、このセクハラ野郎!」という場面。

まひろは氷のような目で言い返します。

「ここには光る君のような殿御はおられませぬ。ゆえに若紫もおりませぬ」

日記では、内心こう思っただけで実際には言い返しておりませんが、ドラマのアレンジでしょう。

公任も実資同様、めんどくさいインテリ野郎でして、この問いかけはこんな意味があるという説もあります。

光る君がわざわざ鄙びた山里に向かい、そこで美しい姫君に出会うのは中国の『遊仙窟』へのオマージュですよね。漢籍に詳しい私にはわかるんですよ。

『遊仙窟』というのは、当時のポルノのようなものとも言えなくもありません。

昔は素朴なので、どこか非現実世界で美女に出会ってロマンスがあるという状況だけで興奮したのですね。そう踏まえると、公任の発言はやはりセクハラのようにも思えますが。

『べらぼう』まで時代が降ると、暇と熟れた体を持て余した人妻が、若い職人に家の用事を頼んだついでに……といった、現代人でも既視感のあるシチュエーションにまで進化します。

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さて、こうした様子を見た道長は胸がざわついたのか、

「藤式部」

と袖を振り、まひろを呼び寄せます。

「なんぞ歌を詠め」

「はっ」

いかにいかが
数えやるべき
八千歳の
あまり久しき
君が御代をば

八千歳まで生きる皇子のあまりに長い寿命を、どう数えればよいのでしょうか。

中宮はさして気にしていない様子ながら、倫子の目に冷たい光が宿ります。

「さすがであるな」

道長が立ち上がると、まひろの歌の出来が良いからか、女房の中は「用意してあったのよ」と囁くものもいます。

そして道長も歌を詠みます。

あしたづの
よはひしあらば
君が代の
千歳の数も
数え取りてむ

私にも千歳生きるほどの寿命があれば、皇子の命を数えられるのだが。

ざわめく客たちと、ますます顔がこわばる源倫子。

馬中将の君はこう論評します。

「あうんの呼吸で歌を交わせるなんて……」

これには歌の達人たる赤染衛門も、冷たい目になっています。私は彼女の子孫の大江広元すら連想しました。

倫子が、全てを悟ったような顔をして立ち上がり、どこかへ去ってゆくと、道長がそれを追いかけます。

まひろも立ち上がって廊下を歩いてゆく。

と、赤染衛門が追いかけ、こうきました。

「藤式部、左大臣とあなたはどういうお仲なの?」

ついにこの時が訪れましたか。

 

MVP:藤式部

今期のNHKは、よくもこんな可愛げのないヒロインを押し出すものだと感服しているキャラクターがいます。

もうすぐ最終回を迎える朝ドラ『虎に翼』の寅子。

そして本作のまひろです。

両者ともモデルはいて、その要素を抽出してきている点も興味深い。

まひろの場合は『紫式部日記』に準拠し出した今週から、より一層禍々しいツヤが出てきたと思えます。

公任への返しにせよ、ドラマは正面切って反論するからまだマシで、日記を参照するとその場ではスルーしつつ、書き残すことで千年後にまで残し、本当に意地が悪いと思えます。

清少納言はレスバごと記すものの、紫式部はくだらなすぎてスルーしたと記す。相手に反論の場は用意されていないわけです。

日記に準拠させると「まひろはどうしたって性格が悪くなるのではないか?」と、個人的には序盤から懸念していました。

ききょうこと清少納言も、日記でぶった斬るわけです。

こんな仲良くしている相手にあんな激しい言葉を投げつけて、それで嫌われないだろうかと心配でした。

しかし私の懸念も杞憂だったようで、本作はまひろを“嫌われ上等”路線で突き進ませているように思えます。

モデルにあった暗い部分と、ドラマの要素が重なり合い、まひろはもう本当に凄いことになっている。

日記だけならば、倫子の目線がここまで冷たくはならないでしょう。ドラマ要素が重なることでとんでもない境地に突っ込んでいます。

まひろは回を追うごとに禍々しさが増しているように思えますが、別に本人は意識してもないのでしょう。

道長は、幼い初対面の頃からとんでもない女だったと振り返っていましたが、あのころから本質は変わっていないようにも思えます。

本人がやりたいようにすると結果的に周囲が勝手に倒れていくような造型ですね。

『三国志演義』では、周瑜や司馬懿が諸葛亮に警戒しすぎた結果、自滅しますが、そんな描写も連想させるほどです。

まひろは恐ろしい。

まひろ本人は、誰かを蹴落とそうとも思っていない。

でも、気づけば勝手に周りが倒れてしまう。

まひろは自分が最善の環境で執筆に励みたいから、道長の策に乗った。

その最短距離としては主君である中宮の信頼を得ればよいから、そのために最善を尽くしたら、もはや相手が「あなた抜きではいられない!」と陶酔するほどとなってしまった。

倫子や明子からすれば「殿をたぶらかす女狐が!」、同僚からすれば「腹黒いムカつく女だよなぁ!」となりかねない状況です。

しかしまひろからすれば「なんか相手が勝手に執着してくる。紙を提供してくるし、応じたけど。そこをガタガタ言われてもね、うっせーわ」となっても不思議はない。

相手の敵意を面倒くさいと思っても、本心では、無視して上等とすらなりそうに思えるのです。

日記準拠の紫式部は、陰キャでネガティブにも捉えられる。

実際、NHKが制作した『紫式部のスマホ』でも、陰キャ設定でした。

それであっていると思います。

その前提で、平安時代をテーマにした本を読んでいると、私はイライラすることがありました。

概ね、こういうことが書いてあることが多いんですね。

「読者の皆さんも、私も、清少納言みたいな陽キャでキラキラして、ズケズケ言えるキャラが好きですよね。

紫式部は流石に陰キャすぎる。

ああいう悪口を書く人ってどうなの?

共感するのはやっぱり清少納言だよね!」

私は陰キャの紫式部派です。

どうあがいたって、あんなキラキラ清少納言にはなれませんから、天下万民が陽キャに共感する前提で話を進められても承服しかねるのです。

だからこそ、陰キャ全開の『光る君へ』には癒される。

陰キャの本質をさらにもっと深掘りしているように思えてくる。

世の中は、真面目でおとなしいアピールをした方が楽なこともある。

中身に強烈な毒があって、内心相手に呆れているとか、策を練っていることが周囲にバレると面倒なことになるので隠蔽しないといけない。

日記準拠だとそうなります。

それこそ『紫式部のスマホ』もそうで、あの主人公・香子は聞こえないようにそっと相手を罵倒するキャラクターでした。

しかし『光る君へ』では、いい子ぶった部分をひっぺがしてしているように思えるのです。

マナーやルールはいっそのことどうでもいい。

悪口? 言いたいことあるなら直接言ってこい。

孤独だろうとかまわない。

私はともかく、書ければいい。

自分の世界を探求できればいい。

性格悪い? そもそも性格の良し悪しって何?

世間の多数派に媚びてヘラヘラ笑うのがその証だとでも?

時折、冷たい目線や引き攣った頬から、そんなドス黒い深淵が見えるまひろがたまりません。

大河ドラマにこんな毒のあるヒロインが出てくる日が来るとは……大河を見てきてよかった。

まひろの黒さに触れるたびに痺れ、これが毒なのかと思うばかりです。

💟 『光る君へ』総合ガイド|紫式部の生涯・宮中・平安文化を網羅


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【参考】
光る君へ/公式サイト

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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