鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第21回「仏の眼差し」

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鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第21回「仏の眼差し」
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八重の死を知らず幸せを噛みしめる義時

「おんたらくそわか……」

大姫の儀式のようなものに付き合わされている政子と実衣

そこに足立遠元が急報を持ち込みます。

「八重さんが!」

「申し訳ない……」と神妙に告げる義村に実衣が叫ぶ。

「嘘でしょ! 死んじゃったの?」

三浦の家人が川下を探していると義村は言います。助かる、きっとどこかに流れ着いている、こんな時期だから一刻も早く見つけてあげてと政子は言うのですが……。

「無駄よ。助かるわけないわ。きっともう亡くなってる」

暗い声音で語る大姫。やはり彼女は心が壊れてしまっています。

政子はそれでも全成に祈祷を頼みます。こんな時に義時は伊豆に泊まっている。義村も探しに行くと去ってゆきます。

しかし、遠元が声をかけると義村はこう言います。

「かわいそうだが、助かる見込みは百に一つもないな。小四郎も、ほとほと運のない奴だ」

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話を聞いた頼朝も、鎌倉中の御家人を集めて探すと宣言。

決して死なせない! 決して!

そう言うものの、実衣はこう吐き捨ててしまう。

「何をしてもふざけているようにしか見えない!」

源範頼はこう言います。

「大丈夫、きっと無事で戻ってきます」

そうは言うものの、全成が祈祷をしていると、灯りはふっと消えてしまう……。

注目したいのは、義村と実衣の反応ですね。

希望を断ち切るように現実的なことをいい、真っ先にその後のフォローを考え始める。

冷酷にも思える現実主義をどう隠せるかがポイント。義村はある程度できています。二人は思考回路が似ていて、もしかしたら伊東祐親あたりからの遺伝の影響かもしれません。

そのころ、義時たちは酒盛りをしていました。

ごろ寝をする時政の隣で、運慶は全く酔っていません。

酒に強いと義時が感心していると、彼は飲んでいませんでした。御仏の前だからですって。うん、それが正しい。

鎌倉では、仁田忠常が辛そうな表情で政子のもとにやってきました。

「御台所!」

「見つかったのですか?」

「はい」

「様子は?」

泣き出す忠常。八重はもう……。

義時は仏像を見ていて、ふと妻の顔を思い出したと語ります。息子の寝顔を見ている時の顔を。

運慶はこう返します。

「俺の母にもよう似ておる」

「お母上でしたか」

義時は穏やかな顔をしています。最愛の妻を思い、しみじみと幸せを味わっているようです。

しかし、その妻はもうこの世にはいません。

 

MVP:八重

八重は入水死亡伝説があります。

頼朝との間に生まれた千鶴丸を失い、悲しみのあまり入水したと。

『鎌倉殿の13人』の八重は、死因こそ同じだけど、動機が異なりました。千鶴丸と重ねた子を救うために命を落としたのです。

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むしろ幸せで、生きることに希望を見出していた中での死。

八重は金剛を産み、比奈(姫の前・義時の妻)が出てくる前で退場せねばならない中、伝説を生かした退場でした。

八重は巧みな造形をした人物で、偏見を露わにする役割を果たします。

三谷さんの描く女性キャラクターでも、技巧の極みを凝らされていて、ものすごいことだと思えるのです。

八重はジェンダー規範を破っている。

女は男を忘れられず、死を選んででも愛を貫く――そんなものは伝説だとキッパリと言い切り、頼朝を拒みました。

八重と政子の“女のバトル”は鎮静化しました。

ネットニュースでは無理に女優同士まで争っているという作り話めいたゴシップ記事がありましたが、そもそもこの二人が争っていたのは初めのうちだけです。

義時と八重が結ばれたあとは、むしろ政子との関係は理解を示し合い、良好でした。全然ドロドロしていませんね。

むしろドロドロは、頼朝と義時の方かもしれない。

八重と義時が幸せそうだと察知すると、意地悪くマウントをしてくる頼朝。なんという陰湿さか!

義時も自分と頼朝を比べ、うじうじしてしまう。

こういうコンプレックスでうじうじするのって、フィクションでの女子あるあるではありませんか?

「ハァ〜、頼朝先輩のほうがスタイルもよくて、成績優秀で、運動もできて。なのに私は地味でダメ」

こんな感じ。

それを八重は受け止めて、私が選んだのだから誇りを持てと言い切る。

自分の愛に価値を見出していなければできないことであり、なんと素敵な女性なのかと思えました。

八重は強くて、堂々としていて、自信があって……悲しい退場だけど、決して悲劇のヒロインにおさまらない人だと思えました。

中世らしいヒロイン像で、強く、たくましく、堂々としていたのです。

素晴らしい女性でした。八重さん、ありがとう。

 

総評

今週は、当時の価値観や思想を問い直すような回でした。

今週初登場となった市原隼人さんが、よいことをおっしゃっておりまして。

◆「鎌倉殿の13人」“13人衆”10人目・八田知家は市原隼人「わびさびの心を見つめ直し」5年ぶり大河(→link

記事から該当部分を引用させていただきます。

市原は「生々しい泥臭さと人間臭さをまとい、いまだ多くの謎に包まれている十三人の合議制の一人の武将、八田知家を演じさせていただきます。この度の大河ドラマで三谷さんが八田の歴史を記すと言っても過言ではありません。私自身、楽しみにしております。日本人として歴史ものの作品に携われる喜びをかみ締めながら、いま一度、わびさびの心を見つめ直し、参加させていただきます」と意気込んでいる。

市原さんをはじめ本作は、演じる方が迷いながら、当時の人々の姿や人物像を掴もうと試行錯誤していることがインタビューから伝わってきます。

今日の八田知家なんて、出てきた瞬間から、研ぎ澄まされた刃のような迫力がありましたからね。

それだけ市原さんが集中して真剣に出てきたのだと思うと、見ている方も身が引き締まる思いでした。

市原さんがおっしゃる日本人としての価値観の再定義が、中世を扱う意義だと思えます。

そして、その思想背景も辿れます。

【神道】

明治以降の「国家神道」とは分けて考えましょう。

素朴なシャーマニズムに近いもので、土肥実平は、土を掘り返してバチが当たるのではないかと不安がっていました。

畠山重忠が「九郎殿は天狗に手解きを受けたのもあながち嘘ではなかったのか」と語り、そんな義経を裏切った泰衡は天罰が降ったのではないかと言ってしましたね。

大姫のイワシの頭もこの類でしょう。

儒教

頼朝が掲げた「忠義」がズバリ当てはまります。

忠義なんて当たり前かというと、そうでもありません。

『麒麟がくる』の明智光秀ともなれば幼少期に叩き込まれていましたね。そのころの武士とは、儒教がインストールされていないから、行動原理すら異なるのです。

儒教では諫言を尊びます。

その辺をうわっつらだけ齧っているから、後白河法皇は諫言をしない平知康に八つ当たりをします。

もっと真面目に儒教を学んだ九条兼実からすれば、ストレスの溜まる嫌な状態です。

【仏教】

タイトルの「仏の眼差し」というのがおもしろい。

義時は仏像に妻を重ねる。運慶は母を重ねる。

仏を見るとき、人は慈愛を与えてくれる誰かの顔を重ねる。

そういう慈愛の意味を考えることが「仏の眼差し」そのものかもしれません。

誰かに見つめれて、まるで仏の眼差しだと思うこと。そんな相手を見返すこと。その心そのものが何か意味があるんじゃないかと思えます。

鎌倉時代の人々は仏教に救いを求めていた。

なぜ、救われたいのか?

そんな素朴で純粋な原点に本作は迫ったと思えます。生きることが辛いから、仏に救いを求めたのでしょう。

鎌倉仏教は、日本史の授業でもおなじみ、とても大事なものです。

鎌倉仏教が芽生えてゆく様子も、背景に描きこまれることでしょう。そこにも注目していきたい。

奥州合戦に一区切りついて、新たな場面へ進んでいく今回の第21回は、

日本人の形を作る思想が、三種揃い踏みをして面白い!

そんな見事な内容だったと感じます。

日本人の思想体系は何か?

それをドラマで見せるということで、海外にも展開して欲しいと思える作品となっています。

ドラマの中では、世代の変化も見てとれました。

今週登場した北条時連。これはしみじみと見てしまう顔をしていますね。

瀬戸康史さんだから顔がいいのは当然としまして、そういうことだけでもありません。

よい感じに泥臭さが抜けてくる、そんな鎌倉御家人新世代という趣がある。

一方で、土肥実平が今週も素敵な顔を見せていました。

石橋山での大敗後、彼が木の実をうまそうに食べる場面では、私は思わず平伏したくなりましたし、何度もそこばかり見てしまいました。

なぜか?

あまりに自然に木の実を食べていて、愛嬌すらあったから。

しかし、時連は、おそらく木の実を食べない。食べたとしても、恥ずかしそうにこっそりと食べそうだと思いました。

そういう世代交代を感じるのです。

なにも土肥実平が野蛮とかそういうことではなく、たしかに“洗練”というものはあるでしょう。

下の世代に行くほど何かが出来上がっていく――そういうところが顔ひとつ見て感じられるのが素晴らしいと思うのです。

たとえば、時連は蹴鞠が得意なんですが。

1話の時点で政子と実衣がかなり無理してできるフリをしていた蹴鞠を、弟はこなしてしまう。

鎌倉幕府でレジャーは変わったんですね。

義時や義村、重忠ら上の世代では狩りを嗜んでいた。

しかし、時連世代となると蹴鞠ですからね。他にも、書物を読んだり、歌を詠んだり、仏典を学んだり、新世代はやることが増えました。

「蹴鞠できないとかありえないっしょ」

「いい歌詠んで京都にも認められたいよね」

「やっぱ唐物の青磁はマストアイテムじゃね」

「オールナイトのお供にはやっぱ抹茶だよな」

そのくらいのことも覚えるようになった。

そうやって鎌倉御家人が買い漁ったから、由比ヶ浜からは今でも青磁の破片が出てくるそうですよ。

思想を描き、かつ時連という新世代代表を出してきたことで、鎌倉の進化が見えてきた気がします。

時連の横にちょっと拗ねた万寿が元服した頼家。

嫌味なほどにデキのいい金剛が元服して泰時が並ぶ。

この作品はつらいとか、悲しいとか言うけれども、希望や育ちゆくものも確かにあります。

それぞれが思想や信仰を手にしていく過程も描かれているし、下の世代にも期待が持てます。

この時連が泰時と並んで後半は大活躍ですからね。今から楽しみです。

大河には、私が勝手に名付けたのですが「夏枯れ現象」があります。

前半を引っ張ってきたキャストが退場し、夏頃に落ち込むこと。

中盤以降に気になる展開が用意できないからの現象ですが、今年は枯れそうにありません。

なぜそう言えるか?

豪華キャストということだけではなく、歴史へのアプローチが極めて真摯なのだと思います。

日本に生まれたからすごいとか偉いとか、そう言うことでなく、日本に生まれて悩み、色々考えて、もっといい世の中にしたいと考えた人がいたからこそ、日本史に魅力がある。

思わずそんなことまで今日は考えてしまいました。

歴史劇は、やはりこうでなくては。

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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